個人店の価格改定プロセス

確かに、「この商品は10円アップくらいかなあ…、えいっ!」みたいな感じで決めていけるなら、それほどの手間ではないかも知れません。
しかし仮にそうだとしたところで、商品数が多ければ「えいっ!」「えいっ!笑」となんども繰り返すことになり、一定の作業量からは逃れられなさそうです。

まして、実際の価格改定プロセスはもっと複雑です。
ステップとしては大きく3段階あり、①基本理念と店舗コンセプトの再確認、②目標利益額と事業構造の再設定、③販売計画の設定、となります。

我々のような超零細の店でも、価格改定のスタートは「お店の基本理念」に立ち戻ります。
ここを確かめないと、「どんなサービスをどのように提供して、どう使っていただく」という商売の基本サイクルが設定できないからです。
既存のものがあったとしても、基本理念は環境に応じて都度変わっていくものなので、今の時点のそれを確認して、固め直します。

次に、最終的な利益がいくらくらいあってほしいか、目標値を設定します。
このとき、必要な経費をすべて洗い出して、費目ごとに整理して構成比で按分すると、売上の目標額が算出できます。

さいごに販売計画です。
各商品をいくらで何個買ってもらえると売上の目標額が集まりそうか、商品ごとの価格及び販売数の目標値について設定します(ようやくここで各商品の価格設定に入るわけです)。

この段階に至り、最初に設定した「お店の基本理念」と「各商品の金額」のあいだで整合性が取れないと、価格を改訂することはできません。
ちょっと前に話題になった、らーめん屋さんの「1000円の壁」問題がまさにそうです。お小遣い程度の出費で美味しいらーめんを楽しんでもらいたいのに、いろいろ計算してみたら1杯何千円じゃないと運営できない、となってしまうとこれはなかなか難しそうです。

最近では、仕入費用などの上昇を背景に、値上げを断念して廃業を選ぶお店がたくさんあると聞きますが、そうなる仕組みや気持ちはとてもよくわかります。
ほとんどの商売は、その商売が成立しうる「業態と販売単価のバランス」があるからです。

小さな違いのように見えても、現場レベルで考えると、平均で1杯1000円と1200円の店は、(お客さんも、お客さんからの使われ方も違うため)もはや全くの別物です。
そのため、別のコンセプトや売り方・運営方法と、それらへ対応する体力が必要となります。
旧体系から新体系へと、簡単に移行できるわけではないと言えるでしょう。

このように、価格体系の変更は、店舗コンセプト全体の変更を意味するため、小規模事業者、特に個人店にとってはかなり効率の悪い作業プロセスと向き合うことを余儀なくされます。
実際に、我々の今回の価格改定は、準備に半年以上かかってしまっています。
準備している間になんども主要な仕入アイテムの価格変更があって、基礎調査に戻ってデータ修正したりしました。

しかしながら、あっちの数値を意識しながら全体を眺めてこっちのバランスを設定する的な、小分けして隙間時間ではできない領域の作業が多いので、1日の内でも体力が残っていて頭がそれなりに動く時間をかきあつめて作業を実施、…となるとどうしてもずるずると時間がかかってしまうのも事実です。
(このあと、ようやく値札やポスター、ウェブの差替えとなりますが、ここまでの苦労と比べたら、作業の質的には、もはやどってことないレベルに感じられます。)

物の値上りはまだ続いているので、遠からず我々も再び価格改定の時期が訪れるのでしょうけれども、小さな店にはなかなかそれをやること自体の負荷が大きいのであります。

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